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本来的自由財産について
破産した場合でも,債権者への配当に回ることなく,破産者が取得できる財産があります。
どのようなものが対象になるのかについて,以下で解説します。
1 本来的自由財産とは
自由財産となる財産は、①破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産(破産法(以下法名省略)34条1項)、②99万円以下の現金(34条3項1号)、③差押禁止財産(34条3項2号)、④破産管財人が破産財団から放棄した財産(78条2項12号)、⑤自由財産の拡張が認められた財産(34条4項)です。
このうち、①~③は法律上当然に自由財産となるため、「本来的自由財産」と呼ばれます。
2 ③差押禁止財産について
- 民事執行法上の差押禁止財産(省略)
- 特別法上の差押禁止財産
特別法に基づく給付のうち、受給者の生活保障等の社会政策的配慮が求められているものについては、特別法に差押禁止規定が設けられていますので,以下でまとめます。
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根拠条文等 |
小規模企業共済受給権 |
小規模企業共済法15条 |
中小企業退職金共済受給権 |
中小企業退職金共済法20条 |
建設業退職金共済受給権 |
法律に規定はないが、中小企業退職金共済法に基づき創設されたため。 |
確定給付企業年金受給権 |
確定給付企業年金法34条本文 |
確定拠出年金受給権 |
確定拠出年金法32条1項本文 |
生活保護受給権 |
生活保護法58条 既に給与を受けた保護金品、進学・就職準備給付金、またはこれらを受ける権利 |
失業等給付受給権 |
雇用保険法11条 ※失業等給付(同法10条)とは ①求職者給付 ア 基本手当 イ 技能習得手当 ウ 寄宿手当 エ 傷病手当 ②就職促進給付 ア 就業促進手当 イ 移転費 ウ 求職活動支援金 ③教育訓練給付 ④雇用継続給付 ア 高年齢雇用継続給付 イ 介護休業給付金 |
労働者の補償請求権 |
労働基準法83条2項 |
交通事故の被害者の直接請求権 |
自動車損害賠償保障法16条1項、18条 |
医薬品副作用被害者救済給付受給権 |
医薬品副作用被害者救済基金法50条1項 |
刑事補償請求権及び保証払渡し請求権 |
刑事補償法22条 |
国民健康保険法による各種保険給付 |
国民健康保険法67条、36条、54条、57条の2、58条
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健康保険法による各種保険給付 |
健康保険法52条、61条 ※保険給付とは ①療養の給付・入院時食事療養費・入院時生活療養費・保険外併用療養日・療養費・訪問看護費・移送費 ②傷病手当金 ③埋葬料 ④出産育児一時金 ⑤出産手当金 ⑥家族療養費 ⑦家族埋葬料 ⑧家族出産育児一時金 ⑨高額療養費・高額介護合算療養費 |
国民年金法による各種給付 |
国民年金法24条 ※老齢基礎年金または付加年金を受ける権利を国税滞納処分等により差し押さえる場合を除く。 |
厚生年金保険法による各種給付 |
厚生年金保険法41条1項 ※老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分等により差し押さえる場合を除く。 |
介護保険法の保険給付 |
介護保険法25条 |
国家公務員共済組合法による各種給付 |
国家公務員共済組合法48条 |
地方公務員等共済組合法による給付を受ける権利 |
地方公務員等共済組合法51条、167条の2 ※退職年金もしくは公務遺族年金または休業手当金を受ける権利を国税滞納処分等により差し押さえる場合を除く |
平成3年3月31日以前に効力が発生している簡易生命保険契約の保険金または還付金請求権 |
平成2年改正前の旧簡易生命保険法50条 |
児童手当の支給を受ける権利 |
児童手当法15条 |
児童福祉法に基づく支給金品 |
児童福祉法57条の5 ※既に支給を受けたものであるとないとに関わらず、差し押さえることができない |
児童扶養手当 |
児童扶養手当法24条 |
特別児童扶養手当 |
特別児童扶養手当等の支給に関する法律16条、3条、17条 |
母子保健法による養育医療の給付 |
母子保健法24条、20条 ※養育医療 養育のため病院または診療所に入院する事を必要とする未熟児に対する、養育に必要な医療の給付。 |
後期高齢者医療給付を受ける権利 |
高齢者の医療の確保に関する法律62条 |
新型コロナウイルス感染症に関する令和2年度特別定額給付金(当該支給を受ける権利) |
令和2年度特別定額給付金等に係る差押禁止等に関する法律 ⑴ 国民1人あたり一律10万円の特別定額給付金 ⑵ 児童手当を受給する世帯に対し、児童一人あたり1万円を上乗せする臨時特別の給付金 が差押禁止財産となる。 |
自然災害義援金 |
自然災害義援金に係る差押禁止等に関する法律3条1項、2項 ※都道府県または市町村が一定の配分基準にしたがって被災者等に交付する金銭に限られる(企業等からの義援金は対象外) |
3 自由財案拡張の場面での考慮
本来的自由財産は、原則として破産者が全て保有できるのですが、他の財産の自由財産拡張を求める場合には、拡張の際に、差押禁止財産の「種類及び額」が考慮されることになります(破産法34条4号)。例えば、小規模企業共済金が150万円ある場合に、預金や保険解約返戻金等の99万円以下の自由財産拡張を求めたとしても、拡張の必要性はないと判断されやすくなる点には注意が必要です。